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反対側の袖には創がいて、お疲れ〜!と抱きしめられて、頭をぐりぐりされた。 「なんだ、心配して損した。すげー良かった。練習した?」 「してる訳ないじゃん! なんなの、この騙し討ち! おまえら知ってたの?」 真っ赤になって怒る僕に、しぃーと指を口の前に持ってくる。 「聞こえるぞ、まだこれからアンコールやるんだから、静かに見てようね」 創が宥めるように、笑って云う。舞台の上では、中央に戻ってきた新庄がなんかしゃべってて、わぁっと歓声が上がったかと思うと、演奏が始ま...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.07 Mon 11:22
学祭当日は、好天に恵まれて、9月にしては涼しい秋晴れの日。 麓の街から上がってきたバスが停まり、校門前で次々と人が溢れだす。公式サイトと自治体へのお知らせだけで、ほとんど広報してないんだけど、みんなよく知ってるなと思う。 今日の生徒会役員のお仕事は、もう特にない。 一応僕たちは、夏服だけどネクタイ着用、執行部の腕章をつけて校内を見まわり、なんかトラブルや困ったことがあったら駆けつける。って感じなので、何もなければ、特にすることはない。 取りあえず呼び出しがかかっ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.07 Mon 11:22
日曜日の午後――。 うたた寝から目が覚めた僕は、食べそびれた昼食を買いにコンビニへ行こうと、部屋を出た。 広くて明るい寄宿舎の廊下。階段へ向かいかけて、小さく流れてくる音色に気付く。 反対側の一番奥の部屋。少し開いた扉の向こうから聞こえるギターの音。僕は方向転換をして、その部屋に向かう。 「廉?」 一応軽くノックをしてから、そっと扉を押す。音が流れてきたのは、廉の部屋からだった。 「馨、起きたのか」 部屋の奥、壁際のベッドをソファ替わりに、...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.07 Mon 11:21
「なにしてるんだ?」 「掃除」 その夜遅く広瀬が戻ると、陽深はごしごしと台所の流し台を擦っていた。 「こんなに夜遅くしなくても、昼間やればいいのに」 「ええ、でも――暇だったし、きれいにしていきたかったから」 陽深は水を流しながらそう言うと、広瀬の隣に腰を下ろす。 「お風呂に行くでしょう?」 「え?」 「銭湯。早く行かないとしまっちゃいますよ。そこに、着替え置いてますから」 部屋の隅に新しい下着と、Yシャツが置いてあった。靴下も。そういえば今朝は、前日のままの格好...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.05 Sat 11:14
「隆尚さん!いったいなにが ――」 戻ってきた夫を問い詰めようとする涼子。だが、広瀬はどんな言葉も耳に入らない様子で、無言でリビングのソファに腰を下ろす。 いつもと違う張り詰めた空気に怯える優里を宥めながら、涼子が子供部屋に連れてゆく。 広瀬は、混乱していた。この状況にも、陽深からの突然の別れの言葉にも。 「隆尚さん、ねえ」 戻ってきた涼子が不安そうに広瀬の膝を揺する。 「陽深、いや、彼とはどういう知り合いなんだ」 難しい顔のまま、呟くように広瀬が言った。 「優里の...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.04 Fri 09:23
『はい、森井商事でございます』 営業用の柔らかい女性の声。 「お忙しいところ恐れ入ります。あの、広瀬と申しますが――」 涼子は努めて冷静な声を作る。 『涼子? 久しぶりじゃない、どうしたの』 「理香?」 『そうよ。あ、番号間違えたの? 経理課よ、これ。二課に回そうか?』 「ううん、いい。彼、来てるの?」 『ダンナ? 来てるわよ。いつもどおり』 「そう、――ならいいの」 『――なんかあったの?』 理香が、心配そうに声を潜めて言った。彼女は涼子とは同期で仲がよく、涼子...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.03 Thu 15:35
今夜は、広瀬は来ない。 陽深はアパートの部屋の窓を開けて、川の流れる静かな水音に、ぼんやりと耳を傾けていた。特に趣味も無く、TVさえほとんど見ない陽深だが、暇を持て余すようなことはこれまでなかった。 ただ、こうしてじっとしていれば時間は過ぎていく。なのに、広瀬に会えないこんな夜は、なぜだかとても長く感じた。 そして、音の無い陽深の部屋に、アパートの階段を上がるゆっくりとしたリズムの足音が近づいてくる。足音は止まり、軽いノックの音に変わった。 「いるのかね、早川だが――」 ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.10.02 Wed 12:06
食事を終えて、先に陽深が風呂に入り、入れ替わりのように広瀬が入った。ホテルの大浴場とまではいかないまでも、他の泊り客も使う共同浴場なのだから一緒に入ってもよかったのだが、広瀬は先に入れと促した。不自然なのはわかっていたが、風呂場で以前のように反応してしまったら言い訳のしようがない。陽深の方は別段不審に思った様子もなく、素直に広瀬の言葉従った。 一緒にいると楽しくて、居心地がよかったはずなのに、最近どこかぎこちない二人の空気。気詰まりではないのに、一緒にいるとどこかで緊張している...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.09.30 Mon 15:42
高村と別れたあと、広瀬はそのまま陽深のアパートに向かった。 人を訪ねるような時間ではないことはわかっていたが、一刻も早く彼に会いたかった。あんなふうに突き放してしまったことへの言い訳は、結局思いつかないままだったが、会いたいと思う気持ちに押さえれて、気が付けばタクシーを走らせていた。 どこにも留まらず、留まれない陽深――。彼が今ここにいる理由が自分だとうぬぼれているつもりはなかったが、広瀬は、彼がこのまま黙ってどこかにいってしまうのではないかという不安に駆られていた。 今...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.09.29 Sun 13:16
「ただいま」 暗い声で、マンションのドアを開ける。 「パパ! お帰りぃ」 飛び出してきた娘を、広瀬はしゃがんで抱きしめる。 子供特有の、少し埃っぽいような匂いと、柔らかい弾力。小さな腕を首に巻きつけてくる優里。そのまま止まってしまった広瀬に、優里は顔を傾ける。 「パァパ?」 こんなふうに、父親のつもりで抱きしめたはずだったのに――。 「いつまで感動の再会をしてるのかしら?」 涼子が、いつまでも玄関先で抱き合っている親子を呆れたように見ていた。その言葉に我に帰った広瀬...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2019.09.28 Sat 13:08
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