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9月の最終週の木曜日。明日は、3年生になって迎える最後の学院祭だった。 馨の生徒会長としての最後のお仕事で、今年は茶道部のお茶会には出られない。それは分かっていたことだけれど、なんとなく寂しい気持ちは拭えなくて。前日の準備に忙しい馨を、取るに足らない用事で呼びつけてしまったり。 着物選びを手伝って貰って、お茶券を渡して、御堂たちとお茶してもらって、――休憩できたと喜んでは貰えたけど、彼らは慌ただしく帰っていった。 柄にもなく、なんだか寂しくて落ち着かないのは、きっと――。 ...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.22 Sat 12:46
「水無瀬くん」 放課後、馨と話しながら生徒会室を出ると、廊下を歩いてきた近藤と行き当たる。 「ちょうどよかった、今忙しいかな? 芭蕉庵の資料のことで訊きたいことがあって」 「いいですよ。――ごめん馨、部長にちょっと遅れるって言っておいてくれる?」 「ん、わかった。じゃ、先行ってるね」 馨は、近藤にぺこりと会釈をすると、慎一に手を振って先に行く。 新学期2日め。今日から通常授業で、運動部最初の活動日。 ちょうど今から、馨と一緒に弓道場に行こうとしていたところだった。 「...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.22 Sat 00:07
球技大会の当日。 慎一は遅くなったかな?と少し慌てて応接室のドアを開けた。 「おはようー、水無瀬くん、今日もよろしくね」 ソファに腰掛けていた下川が小さく手を振った。 「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」 にこやかに言って、部屋に入る。 高嶋の会社からカメラマンとして派遣されてきている彼女は、高校生の息子を持つ2児の母で、小柄で少しふくよかな可愛いらしい女性だった。アラフィフとはとても思えない。 「水無瀬くんの体操服姿初めて見たみたかも。やだー、可愛い!...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.21 Fri 09:38
美味しそうなチョコが並ぶショコラティエは、店の前がオープンカフェになっていた。店の中は満席だったので、二人はテラス席に着く。 少し雲間が切れて日が差しはじめ、幾重にも重なった柔らかいシェードが日差しを遮り、風に揺れる。少し暑いけれど、心地よい風が吹き抜けていた。 冷たいチョコレートドリンクがあったから、慎一はそれを頼んだ。高嶋はいつものようにコーヒーだけど、小皿に載ったチョコレートが一粒添えられている。 高嶋は当然のように、小皿を慎一の前に滑らせた。コーヒーについてるチョコの種類は...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.20 Thu 11:12
「慎一くん。…怒ってる?」 都心の閑静な住宅街の中にあるそば屋で、天ざるを食べる慎一を伺いながら、高嶋がおずおずと訊く。 お昼ご飯は何がいいかと訊かれて、「そば」と答えたら連れてこられた。 朝から口数の少ない慎一に、びびってるらしい。 バスで最寄りの下界の町まで降りたら、そこから電車を乗り継いでお茶の先生の教室へ向かうのがいつもの交通手段だが、今日は町のバス停まで高嶋が迎えに来て、教室まで送ってくれた。 学校まで迎えに行くというのは断固として固辞した。離れたところで待ち合...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.19 Wed 10:21
「馨、夜眠れてる?」 顔色が悪いのが気になって、慎一はお稽古が終わってから馨に声を掛ける。 居眠りはいつものことだけど、お稽古中にうとうとしたのは初めて見た。 3年生になって慎一が部長になって、厳しい先輩はいなくなったし気が緩んでるせいもあるだろう。忙しい生徒会の仕事の合間を縫って部活にきてる馨だから、叱りたくはないけど。 「あ、…ごめんね、慎一。お稽古中に」 馨が申し訳なさそうに、首を竦める。 慎一は、怒ってるんじゃないよと、笑顔で言った。 「…誰かに、何...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.18 Tue 09:26
思ったより遅くなってしまった。 もう吉見は来ているだろうか――。慎一は急いで芭蕉庵に向かう。 ひと気のない露地へ続く木戸の前に、吉見は立っていた。 「吉見先輩! ごめんなさい、お待たせして」 部室とお茶室の鍵は、慎一が持っている。吉見は、木戸を開けて部室の方へ行こうとする慎一の腕を掴んだ。 「いや、ここでいいよ。すぐに済むから」 今日は天気も良くて、暖かい。此処には誰もいないから、外で構わないよと、吉見は待合の方へ慎一を促す。 屋根のある待合に、二人は並んで腰を掛けた。数寄屋...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.17 Mon 09:06
試験が終わると、また高嶋のデートしよう攻撃が始まったけれど、結局休みが合わずに、まだあれから会ってはいない。 今夜はまだ、おやすみのメッセージは届かない。 (声が、聴きたいな――) 高嶋からメッセージが届いても、慎一はすぐには開かない。そんなにまめにはチェックしないタイプなんだな、と思われるくらいの頻度で開き、最低限の返事を返す。 もともと、慎一はあまりラインに噛り付いているタイプではなかった。 だけど高嶋からメッセージが届くようになって、スマホは肌...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.16 Sun 18:55
2月も半ばに入った冬らしい日、慎一はひと気のない芭蕉庵に呼び出された。 「失礼します」 今は中間考査の期間中だった。 試験が終わった午後、慎一が部室の木戸を開けると、中の障子は開けられていて、部長の吉見が中で待っていた。 「いらっしゃい。悪いね、試験中に呼び出して」 「いえ、僕は大丈夫ですでけど」 3年生はもう授業もほとんどなくて、自由登校になっていた。 学院の生徒のほとんどは内部進学でそのまま聖ステファノ大学に進むが、外部受験をする生徒も何割かいる。 国立の二次試験を間...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.15 Sat 00:16
休憩の後またしばらく滑って、慎一は転ばずに一人で滑れるようになった。 後半、高嶋が後ろ向きに慎一の手を引いて滑ってくれたのを見て、それやりたいと云ったら、また今度とやんわり止められたけど。 屋外のスケートリンクはやっぱり寒いし、疲れてくると怪我をしやすくなるからと、二人は混み合ってきたお昼頃にスケートリンクを出た。 「お昼ごはん、少し遅くなっちゃいそうだね。大丈夫?」 街中に向かって車を走らせながら、高嶋が訊いてくる。 「アイス食べたりしたから、そんなにお腹すいてないよ」 「...
サバクノバラトウミノホシ。 | 2020.02.14 Fri 08:59
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